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テレビ番組「ハーバード白熱教室 Justice with Michael Sandel」の聴講メモ。

- 第3回「“富”は誰のもの?」
http://www.nhk.or.jp/harvard/lecture/100418.html
- NHK ハーバード白熱教室|番組概要
http://www.nhk.or.jp/harvard/about.html
- Wikipedia:マイケル・サンデル

課税に「正義」はあるか


前回からの続き。

(1) 「功利主義」 高級な喜び と 下級な喜び を区別することは可能だ(ジョン・スチュアート・ミル)
(2) 「功利主義」 個人の権利 と 正義 は特に尊重されるべきものだ(ジョン・スチュアート・ミル)

1についての:喜びの価値に対して個人の道徳の規準を示すことのできる理論はあるのか?
2についての:厳密には功利主義とは言えない「人間の尊厳」と「他人の尊重」という概念を説明できる理論はあるのか?

他人を尊重し、利用しない理由は、「長い目で見れば“効用”をしのぐ」から。
今回はそういう権利理論についての話(つまり、2についての話)。
その権利理論では「個人はより大きな社会の目的もしくは効用を最大化させるために使われる単なる道具ではない」とされる。

その権利理論とは!

リバタリアニズム=「自由原理主義」「市場原理主義」。

個人には権利がある
その権利はあまりにも強く 広範囲に渡るため
国家が行うことがあるのか あるとすれば何か
ロバート・ノージック
↑疑問提起。

リバタリアニズムによる政府の見方:
(1) 干渉主義的な立法の否定。
リバタリアン「シートベルトをしめることは良いことだとは思うが国家が強制することはできない」。
(2) 道徳的な立法の否定。
リバタリアン「同性愛者がいることが誰の権利も侵害しないので国家が禁止すべきでない」。
(3) 富者から貧者への所得の再分配の否定。
リバタリアン「再分配はある種の強制である」。

リバタリアンが唯一認めている課税:
社会の全員が必要とする国防、警察、契約、所有権を実行する司法制度を維持するためのもの。それも最小の政府によるもの。

米国では人口の10%が富の70%を所有している。
これは正しいのか否か?

ノージックによる「何が所得の分配を公正にするのか」の2つの原則:
(1) 所得の正義(最初の保有)。
富を生むみなもとを最初に保有する際に正義があったか否か。
(2) 移転の自由(自由市場)。
その分配が自由な意思決定によるものか否か。

リバタリアンは「取得の正義」と「移転の正義」で考える。
貧しい人を助けるためとはいえ国家から強制された再分配は正しくない、となる。

超リバタリアンのノージック曰く、課税は盗みだ。

ノージックによる「課税に反対する議論」:
課税
→所得の取り上げ
→強制労働
→奴隷制
→自己所有の原則の侵害。

課税は強制労働に等しい。国家が個人を所有する。政府の奴隷。

- 権利に対するリバタリアンの考え方の原則=自分を所有するのは自分だ
- 自己所有の原則の侵害 → 功利主義が破綻した理由。
- 自己所有の原則の侵害なので、健康な人間から臓器を摘出するのは間違っている。

リバタリアニズムを論破するには「課税=奴隷」を論破する必要がある。

「私」を所有しているのは誰?


ミルトン・フリードマンの主張する小さな政府。
政府のやるべきことと思われていることの中に必ずしも必須ではないものがある。
例えば、社会保障制度。
貯金すればよい。

しかし、警察や消防などの公的サービスは別。フリーライダー問題がある。

フリーライダー=活動に必要なコストを負担せず利益だけを享受する人。

私立の消防会社の話。
年会費を払うと家の火事を消しに来てくれる。
全ての家事には対応しない。
家事のとき到着しても、会員の不動産に燃え広がらないかぎり消火活動しない。

(リバタリアズムの話に戻る)

リバタリアズム的主張の根底=「強制への懸念」。
なぜ強制がいけないか。
彼らの答え:誰かを強制すること、一般的な福祉のために誰かを利用することは間違っている。
なぜなら自分を所有するのは自分であるという根本的な事実、自己所有という根本的な道徳的事実を問題とすることになるからだ。

(学生討論)

リバタリアニズムへの反論:
(1) 貧しい者のほうがより金を必要としている。
(2) 統治される者の同意による課税は強制ではない。
(3) 成功した者は社会に借りがある。
(4) 富は部分的に運で決まるので当然のものではない。

(講義に戻る)

本当は自分で自分を所有していないのではないか?
次回ジョン・ロックの話へと続く。

(私的まとめ:
- 功利主義「一人はみんなのために!」
- リバタリアニズム「俺は誰にも飼いならされないぜ!」
)

これまでの聴講メモ

- 第2回「命に値段をつけられるのか」[2010-04-17-1]

マイケル・サンデル / これからの「正義」の話をしよう--いまを生き延びるための哲学