おいしいおいしい、お父さんかっこいい、おかわりちょうだい、と大興奮の私たち姉妹に父は、
「これは内緒のサイダーだから一杯だけだ」
と重々しく告げ、私たちががっかりすると
「その代わり、お母さんが出かけたらまた作ってやる」
と言いました。
新作のサイダーを飲みながら父と一緒にテレビを見たのは、子供時代の幸福な記憶のひとつです。子供向けの番組にはあまり興味を示さない母と違って、父は子供に近い目線でアニメを一緒に楽しんでくれる人でした。
母がいない間に、みんなで母の日のプレゼントをこっそり用意したこともありました。母に内緒で父がおもちゃ屋さんや本屋さんに連れて行ってくれたこともありました。
だから私は、母が時折家を空けるようになったことに対して、ちっとも嫌な印象がないのです。母がいなかったからこそいつもと違う親密な時間を父と過ごせて、それはそれでとても楽しく幸せでした。
土岐山さんのおうちでも物事の流れが違っていれば、たとえばお父さんが趣味をやめさせる以外のフォローをしてくれていれば、お母さんの革手芸は幸せな思い出になった可能性があったんじゃないかと思ってしまいます。すっきり。