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ブログ「Life is beautiful」(http://satoshi.blogs.com/)で知られる、
中島聡さんの書き物が一気に読める新書です。

中島聡 / おもてなしの経営学 - アップルがソニーを超えた理由


三部構成で、
第一章はブログ記事を中心に「おもてなし」について、
第二章は月間アスキーのコラムからITビジネス話、
第三章は三人との対談三本。
それぞれの章のページ数の割合は、だいたい1:1:3。

本書のタイトルになっている「おもてなし」とは、
User Experience(ユーザー・エクスペリエンス)の
著者が提唱する訳語(意訳語?)。ブログで募集したそうな。
日本人ならピンとくる良い表現だと思います。
「このソフト、ちょっとおもてなしが足りないよね」
とか使うのかな。または活用しちゃったりして
「彼が作るUIって、必ずおもてなくなっちゃうよな」とか?

第一章は、「おもてなし」系の話として、
情報リテラシーが必要な状況ってのがそもそもおかしい
という話(この話に通じる→[2003-09-02-2])とか、
「床屋の満足」(顧客じゃなく自分を優先しちゃう)の話とかが、
技術者として共感できました。

で、なんといってもこの本の面白さは、
中島さんのマイクロソフト時代のいろいろなエピソード。
第二章、第三章にいろいろのっています。
この本はこの「中島聡半生記」のためにだけにでも目を通すべきです。

MS内でもベンチャー的に少人数で短期なプロジェクトで
新しいものを作っていくべきだと、
著者がビル・ゲイツに進言するも、
どこのベンチャー企業でもできることではなく資金力と
人力リソースを持つMSでしかできないことで差別化するべきだ、
と返された話。
大企業にしかできないこと vs ベンチャーでしかできないこと。
これについては良い面、悪い面、
いろいろとあるけど、なんというかビジネスですよね。
まあ、ともかく私のいる自然言語処理業界は MS の資金と人材は、
脅威だけど、業界活性化という点ではありがたいかも。

著者は90年代後半にオフィスアプリのウェブアプリ化に
関わっていたそうなのですが、
会社が舵をウェブにきらなかったことに対して不満を述べつつも、
その時代から現在までにパッケージソフトとしてのオフィスが
稼いだ累計を考えたら悲しいけど結果的には正しかった、
と振り返っています。これを読んで
「ほれみろ!グーグルに検索や広告で負けたじゃないか!」
といった大人げない態度とは無縁な誠実さと現実的さ加減に感銘を受けました。

あと、グーグルについてのこの記述が、
実際はどうなのかはともかく、なるほどー、と思いました。
こういう視点はなかったなあ。
マイクロソフトからもずいぶんグーグルに人材が移っているけど、
ある意味、リタイアメントセンターとして理想的なんです。
マイクロソフトを辞めてベンチャーを立ち上げるのはハードルが高い。
だからといって、趣味の範囲でプログラムを書いていても
虚しくなってくる。その点、グーグルに行けば賢い連中が周りにいて、
好きなプログラムを書けて、給料ももらえる。 (p.197)

§

なんとなく都々逸。
おもてがないのが おもてなし
うらがないのが うらないし
そんなわたしは かねないし
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