「お金で買えるもの 買えないもの(ハーバード白熱教室)」の聴講メモ
2010-05-09-1
[TV]
テレビ番組「ハーバード白熱教室 Justice with Michael Sandel」の聴講メモ。
- 第5回「お金で買えるもの 買えないもの」
http://www.nhk.or.jp/harvard/lecture/100502.html
- NHK ハーバード白熱教室|番組概要
http://www.nhk.or.jp/harvard/about.html
- Wikipedia:マイケル・サンデル
前回はロックの同意による政府という考え方について議論した。
その結果、いくつか疑問があがった。
そのうちの一つ:
多数派の合意があってもくつがえせない政府の制限とはなにか?
ロックの考え方では、民主的に選ばれた政府には国民に課税する権利がある。
だがそれは同意に基づく課税でなければならない。
課税は公共の利益のために国民の財産を取り上げることだから。
でも税金を制定したり徴収したりするときに国民1人1人から同意を取り付ける必要はない。
必要なのは社会に参加し政治的な義務を引き受けることについて事前に同意を得ておくこと。
一度その義務を引き受ければ多数派に賛同するのと同じことになる。
課税についてはこうなのだが、「生存権」についてはどうなのか。
徴兵。政府が国民を戦場に送る。
このとき、自分を所有するのは自分であるという「自己所有権」はどうなるのか。
ロックは課税と同じとの考え方。そして:
ロックの挙げた例:
将軍だけでなく軍曹であっても兵士に対して対応の前へ出ろと命令できるたとえ確実に死ぬと分かっていても。
しかし、生死を分ける命令を出せても、将軍はこの兵士から1ペニーたりとも取り上げることはできない。なぜならそれは正当な権威に基づく命令ではないからだ(恣意的である)。
これから分かるように、ロックの考え方ではなによりも「同意」が重要。
軍隊の徴兵制を例を考える。
兵士を確保するための解決策:
(1) 給与と手当を増やす。
(2) 徴兵制へ移行する。
(3) 外部委託(傭兵)。
志願制、徴兵制、傭兵制。
南北戦争の話。
徴兵制だけど代わりの人を送ることができた。
つまり、お金で徴兵を逃れることができた。
買収条項付きの徴兵制。
これは不公平か否か。
以降、学生討論。
- 貧しい人にとっては不平等。
- 志願制と同じではないか。
- 支払われるお金が異なる(個人 vs. 国)ので不公平。
- 徴兵制は全ての国民に戦争についての考えさせるので公平。
- 愛国心の話。
- 現在は志願制の軍隊というよりも給与制の軍隊。
兵役を課すのに市場での交換を通してはならないという反対意見:
その根拠1:市場の原理で兵役を割り振るのは強制・不公平・不平等。
→社会の背景のおける不平等が人々が自分の労働を売買する際にどのように選択の受有を阻んでいるのか問う必要がある。
その根拠2:愛国心が重要である。兵役を給与のための行うべきではない。
→市民としての義務とは何かを問う必要がある。愛国心は義務なのか。「同意」がなくても課せられる義務(愛国心など)はあるのか。
人間の生殖についての市場の役割について。
卵子提供者の募集広告の例。
条件:知的で運動神経が良く、身長175cm以上、SATスコア400以上。
プレミアムな卵子1個の値段として5万ドル払うつもり。
精子募集の公告もある。精子提供者は1回75ドルもらえる。
問題提起:卵子や精子は売買されるべきか否か。
人間の生殖能力にからむ契約についての話。
代理母契約。ベビーM訴訟。
この事件を道徳的な問題として考えてみる。
賛成反対とそれについての学生の意見:
(1) 契約履行が正しい(引渡すべき):
(1.1) 代理母は自発的な同意。強制の要素はない。約束は最後まで守るべき。
(1.2) 2.1への反論。養子縁組と同じで後から言うのはおかしい。
(2) 契約不履行が正しい(引渡さなくてよい):
(2.1) 関係者全員が全ての情報を知っている契約ではない(代理母は子供が生まれることによりどう感じるかの情報を知らなかった)。
(2.2) 子供は実の母親に対し「不可譲の権利」を持つと思う。子供が望めば引き離すことはできないと思う。自然によって作られた絆は契約によるものよりも強い。
(2.3) 母親は子に対して権利を持つと思う。
(2.4) 誰かの生物学上の権利を買っている。幼児売買。
以下、サンデル教授によるまとめ。
代理母契約 強制への反対理由:
(1) 同意に瑕疵があった(瑕疵のある同意は、強制によっても情報の欠如によっても起こり得る)。
(2) 非人間的。
裁判所曰く:
- 母親は子供との絆の強さを知る前に変更不可な約束をさせられている。
- 彼女は完全な情報を与えられた上で決断したのではない。
- なぜなら赤ん坊が生まれる前には最も重要な意味において情報は与えられていないからである。
- これは子供を売るのと同じ。少なくとも母親の子供に対する権利を売るのと同じである。
- 参加者の動機となったものがどのような理想主義であれ、利益を得るという動機が優位となり、最終的にはこの取引を支配している。
同意について(反対理由1の)。
自発的な同意が真に自由な同意にならない場合が2つある。
一つは、合意するよう強制されたり圧力をかけられたりした場合。
もう一つは、十分な情報を与えられていなかった場合。
非人間的と感じることについて(反対理由2の)。
尊敬、感謝、愛、名誉、畏敬、尊厳などの価値。
ジェイコブソン事件の話。
不妊治療の患者に無断で自分の精子を用いた医師。
- 第3回「“富”は誰のもの?」[2010-05-01-6]
- 第4回「この土地は誰のもの?」[2010-05-03-1]
■マイケル・サンデル / これからの「正義」の話をしよう--いまを生き延びるための哲学
- 第5回「お金で買えるもの 買えないもの」
http://www.nhk.or.jp/harvard/lecture/100502.html
- NHK ハーバード白熱教室|番組概要
http://www.nhk.or.jp/harvard/about.html
- Wikipedia:マイケル・サンデル
兵士は金で雇えるか
前回はロックの同意による政府という考え方について議論した。
その結果、いくつか疑問があがった。
そのうちの一つ:
多数派の合意があってもくつがえせない政府の制限とはなにか?
ロックの考え方では、民主的に選ばれた政府には国民に課税する権利がある。
だがそれは同意に基づく課税でなければならない。
課税は公共の利益のために国民の財産を取り上げることだから。
でも税金を制定したり徴収したりするときに国民1人1人から同意を取り付ける必要はない。
必要なのは社会に参加し政治的な義務を引き受けることについて事前に同意を得ておくこと。
一度その義務を引き受ければ多数派に賛同するのと同じことになる。
課税についてはこうなのだが、「生存権」についてはどうなのか。
徴兵。政府が国民を戦場に送る。
このとき、自分を所有するのは自分であるという「自己所有権」はどうなるのか。
ロックは課税と同じとの考え方。そして:
重要なのは
政治的あるいは軍事的権威が
恣意的に権力を行使しないことだ
(ジョン・ロック)
ロックの挙げた例:
将軍だけでなく軍曹であっても兵士に対して対応の前へ出ろと命令できるたとえ確実に死ぬと分かっていても。
しかし、生死を分ける命令を出せても、将軍はこの兵士から1ペニーたりとも取り上げることはできない。なぜならそれは正当な権威に基づく命令ではないからだ(恣意的である)。
これから分かるように、ロックの考え方ではなによりも「同意」が重要。
軍隊の徴兵制を例を考える。
兵士を確保するための解決策:
(1) 給与と手当を増やす。
(2) 徴兵制へ移行する。
(3) 外部委託(傭兵)。
志願制、徴兵制、傭兵制。
南北戦争の話。
徴兵制だけど代わりの人を送ることができた。
つまり、お金で徴兵を逃れることができた。
買収条項付きの徴兵制。
これは不公平か否か。
以降、学生討論。
- 貧しい人にとっては不平等。
- 志願制と同じではないか。
- 支払われるお金が異なる(個人 vs. 国)ので不公平。
- 徴兵制は全ての国民に戦争についての考えさせるので公平。
- 愛国心の話。
- 現在は志願制の軍隊というよりも給与制の軍隊。
兵役を課すのに市場での交換を通してはならないという反対意見:
その根拠1:市場の原理で兵役を割り振るのは強制・不公平・不平等。
→社会の背景のおける不平等が人々が自分の労働を売買する際にどのように選択の受有を阻んでいるのか問う必要がある。
その根拠2:愛国心が重要である。兵役を給与のための行うべきではない。
→市民としての義務とは何かを問う必要がある。愛国心は義務なのか。「同意」がなくても課せられる義務(愛国心など)はあるのか。
母性売り出し中
人間の生殖についての市場の役割について。
卵子提供者の募集広告の例。
条件:知的で運動神経が良く、身長175cm以上、SATスコア400以上。
プレミアムな卵子1個の値段として5万ドル払うつもり。
精子募集の公告もある。精子提供者は1回75ドルもらえる。
問題提起:卵子や精子は売買されるべきか否か。
人間の生殖能力にからむ契約についての話。
代理母契約。ベビーM訴訟。
ベビー M 事件(ベビーMじけん)とは、代理母契約の有効性が裁判で問われた事件。アメリカ合衆国で起こった事件で、代理出産を行った女性が子の引渡しを拒み、養育権を求めたことから裁判になった。この事件を期に、国際的に代理母出産を規制する動きが起きた。(Wikipedia「ベビーM事件」より)
この事件を道徳的な問題として考えてみる。
賛成反対とそれについての学生の意見:
(1) 契約履行が正しい(引渡すべき):
(1.1) 代理母は自発的な同意。強制の要素はない。約束は最後まで守るべき。
(1.2) 2.1への反論。養子縁組と同じで後から言うのはおかしい。
(2) 契約不履行が正しい(引渡さなくてよい):
(2.1) 関係者全員が全ての情報を知っている契約ではない(代理母は子供が生まれることによりどう感じるかの情報を知らなかった)。
(2.2) 子供は実の母親に対し「不可譲の権利」を持つと思う。子供が望めば引き離すことはできないと思う。自然によって作られた絆は契約によるものよりも強い。
(2.3) 母親は子に対して権利を持つと思う。
(2.4) 誰かの生物学上の権利を買っている。幼児売買。
以下、サンデル教授によるまとめ。
代理母契約 強制への反対理由:
(1) 同意に瑕疵があった(瑕疵のある同意は、強制によっても情報の欠如によっても起こり得る)。
(2) 非人間的。
裁判所曰く:
- 母親は子供との絆の強さを知る前に変更不可な約束をさせられている。
- 彼女は完全な情報を与えられた上で決断したのではない。
- なぜなら赤ん坊が生まれる前には最も重要な意味において情報は与えられていないからである。
- これは子供を売るのと同じ。少なくとも母親の子供に対する権利を売るのと同じである。
- 参加者の動機となったものがどのような理想主義であれ、利益を得るという動機が優位となり、最終的にはこの取引を支配している。
同意について(反対理由1の)。
自発的な同意が真に自由な同意にならない場合が2つある。
一つは、合意するよう強制されたり圧力をかけられたりした場合。
もう一つは、十分な情報を与えられていなかった場合。
非人間的と感じることについて(反対理由2の)。
親として子供に感じる愛情がどんなものであれ、それを抑圧するように代理母に求めれば、出産を譲渡できる労働に変えてしまう。ある種のものは自由に利用できないけど価値がある。
なぜなら出産を、妊娠に対する社会の慣行が正しく奨励している目的、すなわち子供との情緒的なきずなから切り離してしまうからだ。
(エリザベス・アンダーソン)
尊敬、感謝、愛、名誉、畏敬、尊厳などの価値。
ジェイコブソン事件の話。
不妊治療の患者に無断で自分の精子を用いた医師。
これまでの聴講メモ
- 第2回「命に値段をつけられるのか」[2010-04-17-1]- 第3回「“富”は誰のもの?」[2010-05-01-6]
- 第4回「この土地は誰のもの?」[2010-05-03-1]
■マイケル・サンデル / これからの「正義」の話をしよう--いまを生き延びるための哲学