混沌たる世界を支配する、究極の物理法則「べき乗則」。それは砂山の雪崩、地震、絶滅などの自然現象だけでなく、株価変動や流行といった社会現象にさえ見出せる。自らの発見を可能にした科学の進歩過程にも現われるこの法則を、人為と偶然の蓄積である「歴史」全般に敷衍したとき、私たちが手にする驚くべき洞察とは…統計物理の基本から壮大な応用可能性までを語りつくす、スリリングな科学読本。
アメリカの哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズは、こう書いている。「賢な技術とは、何を見過ごすかを見極める技術だ」。本書は、何を見過ごすかを知るために、険しい科学的道筋をたどっていく本である。三角形や運動する物体の類似性についてではなく、我々の人生に影響を及ぼす様々な激変のあいだにある深遠な類似性の発見と、そして経済、政治体制、生態系など、激変が起こりうる複雑なネットワークの自発的な構築過程についての本だ。
(p.26)
物理学が本質的に単純であるのなら、なぜ世界はこんなに複雑なのだろうか? なぜ生態系や経済は、ニュートンの法則と同様の単純性をもちあわせていないのだろうか? その答えは一言で言えば、「歴史」なのだ。
(p.36)
平衡状態から外れた物事は、時間に依存しない方程式を解くことでは調べられない。そこで物理学者たちは、別の方法に切り替えた。方程式の代わりにゲームを使うことにしたのだ。物理学の雑誌は今、単純なゲームの研究に関する論文でいっぱいだ。ある論文は結晶成長の原理を探るもので、また別の論文は粗い表面の生成を再現するもので、といった具合である。「ゲーム」ってのは遊ぶやつじゃなくて、ゲーム理論やライフゲームとかそういうやつね。シミュレーションとかも。
(p.36)