たつをの ChangeLog : 2010-04-07

ウェブが大変になるのか」と一部ネット界隈で話題になった「ウェブ大変化」。

もちろん「大変になる」の「大変」化ではななく、「大きな変化」の「大変化」ですが、いろいろと大変になっていくのは間違いありません(悪い意味でも良い意味でも)。

森正弥 / ウェブ大変化 パワーシフトの始まり


2006年に出た梅田望夫著「ウェブ進化論[2006-02-08-4]で提示された、「こちら側」(リアルな世界)、「あちら側」(ネットの世界)。
本書はそれを出発点として、今、2010年3月の「こちら側」「あちら側」の状況を解説し、来るべき新たな世界について考察したレポート。
IT系のニュースで流れている話題の基礎知識が網羅的に説明されていて、今のネットまわりの状況を見渡す地図帳的な本でもあります。

内容は、「こちら側の多様化」「あちら側の大規模化」「知と我々自身の変化」の大きく三つに別れています。

第1章「多様化する世界」は、現在の「こちら側」というか境界面(インタフェース)にあるモノ、サービス、コンセプトの紹介と解説。
カテゴリの深さを無視して、紹介されているものの一部を挙げると、スマートフォン、タンジブル・インタフェース、フォトニック電界センサー、ウェラブル・コンピュータ、脳波検出デバイス、拡張現実(AR)、アンビエント・コンピューティング、などなど。
これらのインタフェースの多様化を著者は「カンブリアの大爆発」に例えています。
そして、実際の空間・生活と融合していくと、現実と仮想現実との境界を意識しないようになり、第三の現実(サード・リアリティ)の世界へ繋がっていくと。
今のカンブリア紀が落ち着いてくると、いつのまにかサード・リアリティの世界になっているんだろうな。

第2章「雲の彼方」はネットの向こう、つまり「あちら側」の解説。
「こちら側」が多様化している一方、「あちら側」は大規模化が中心テーマでクラウド的な話がメイン。
クラウドまでの流れはこんな感じ:
- ソフトウエアの流れ:ASP→SaaS→PaaS。
- ハードウェアの流れ:データセンター→ホスティングサービス→時間貸し。
その他のキーワードとして、Map/Reduce(Hadoop等)、KVS、エラー忘却型コンピューティング。
エラー忘却型コンピューティング(failure oblivious computing)は、この本からの私の理解だと、エラーがあっても「まあいいじゃん」と流してシステム全体をロバスト化するような話みたい。こんな名前がついているとは知らなかったです。

第3章「知と我々自身の変化」では、「こちら側」と「あちら側」の変化を踏まえて、我々の新しい知の形を解説しています。
膨大なネット空間をベースとした「知」をここでは「集合知」と「巨大知」に分類しています。
集合知(コレクティブ・インテリジェンス)は、多くの人の知恵を元にしたもので、従来の「集合知」の概念。
これに対して巨大知(オーガニック・インテリジェンス)は、もっと大規模なデータを扱うもの、大量に氾濫する情報から有用な情報をきっちり取り出すもの、みたい。
多種多様かつ巨大、そして刻一刻と更新され、ブラッシュアップされていくデータや情報や知識を、高速に検索する技術やそこから適した情報を推薦する技術、そして意味・関係性をマイニング(解析)していく技術と高度に融合させ、価値を次々と生み出す... (p.165)
あらゆるところに設置された大量のセンサーからの多種多様なデータの分析で人類の諸問題を解決していこうという試みがあるみたいで、こういう感じが「巨大知」なのかな。
あと、エール大学の David Gelernter と Ajay Royan が提唱して「世界流」(ワールド・ビーム)という概念が興味深いです。
インターネット上のあらゆるデータが、時間にしたがって次々と生成され、流され続けていくストリームへと変貌していくことを予測して、インフォメーション・ビーム(Information Beams)、そしてそれが世界規模で束ねられたワールド・ビーム(Worldbeam)というコンセプトを提唱している。 (p.168)

第4章はこれまでのまとめと著者によるビジョンが示されています。
個人がネット接続・情報処理・イノベーションを行う新しい世界へ。
主役は大組織から小組織・個人へ。
多様性による問題解決へ。
楽観的ではありますが、夢あふれるメッセージです。
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