第3帝国成立後,宣伝大臣に就任したゲッベルスは,繰り返し「宣伝だけ
が阻むべくもない威力を発揮した」と主張することで第3帝国内部での
発言力を獲得し,国家官僚組織としての宣伝マシーンを作りあげたが,
この宣伝啓蒙省の成りあがりエリート達が自らの地位向上のために
「宣伝神話」の創造に血道をあげたことは言うまでもない。
ドイツ人歴史家を含め当時の証言は,ナチ宣伝の魔力や情報操作の巧妙さ
を強調することで「ヒトラーに投票した人間ひとりひとり」の政治的責任
を軽減しようとしていないかどうか,冷静に吟味する必要がありそうであ
る。ナチ体制に対して大衆的な抵抗を行うこともできず,連合軍による
占領まで「ナチに騙され続けた」ドイツ国民の言いわけの弁として
「絶対の宣伝」は絶大な威力を発揮するはずである。